『山小屋付賃貸マンション』アサクラさんインタビュー

f:id:hobbyinvestment-r:20190804174126j:plain 世田谷のマンションを借りると山奥の小屋を使わせてもらえるという、『山小屋付賃貸マンション』というユニークなコンセプトで不動産賃貸業をされている大家さんがいらっしゃるという噂を聞きつけ、東京西部の山奥の小屋で、アサクラさんにお話しを伺ってきました。 ※写真:山小屋の1階で、アサクラさん(左側)と

 

 

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黒く塗装され生まれ変わった小屋の外観/1階の床は「西粟倉・森の学校」のひのきタイル(photo: 邑口京一郎)

 

大家業のはじまりは、自主管理する世田谷の賃貸マンション

 

室田:『山小屋付賃貸マンション』というキャッチーなフレーズと、この小屋のかわいらしい写真に引き寄せられて、お話しをお伺いしに来てしまいました。アサクラさんは、普段は世田谷で大家さんをされているんですよね?

 

 

アサクラ:はい。約5年前に親戚筋から引き継いだ、世田谷の築50年のマンションで大家さんをしています。大家さんといっても、自分自身も同じ建物内で入居者のみなさんと同じグレードの部屋に住みながら、自主管理をしていますので、立派な家に住んでいるいわゆる大家さんのイメージとは違うかもしれません。

 

 

室田:築50年ということは、空いた部屋から順番にリフォームをしながら経営をされている感じでしょうか?

 

 

アサクラ:立地がよいこともあり、前所有者である親戚の時代には、最低限のメンテナンスだけでほぼ満室の状態を保っていましたが、築30年を過ぎたあたりから賃料の値下がりや空室が目立つようになりました。

 

そこで親戚は、不動産業者に言われるがままに浴室をユニットバスに替え、ウォシュレットをつけ、外置きだった洗濯機置場を室内に取り入れるリフォームをし、一時的には賃料も空室率も改善されたのですが、このリフォーム以降、入居者さんが一度目の更新をせずに退去することが増えてしまいました。

 

ちょうどその時期に結婚した僕は、夫婦でこのマンションに住むことになったのですが、むりやり新しくした箇所が思ったよりも使いにくくて驚きました。

他の物件と横並びにすることだけ考えて施されたリフォームによって、とても暮らしにくい物件になってしまっていたんです。更新されない理由は一目瞭然でした。

 

 

室田:なるほど、ありがちな話ですね。それで、そこからアサクラさんが引き継がれた際に、気をつけられたことはありますか?

 

 

アサクラ:空室が出るたびに、不動産業者や工務店に言われるがままのリフォームではなく、スイッチや照明器具に至るまで、細部にこだわったリフォームを行いました。

 

といっても、家族でお金を出し合っての経営なので、無垢フローリングを使ったり高価な建材を使うほどの潤沢な予算はありませんから、限られた予算の中でベストな建材を丁寧にセレクトするイメージです。

 

ただ、玄関土間のタイルなどは面積が少ないので、単価は高くても見栄えのいいタイルをDIYで貼ることで、コストをカットしながら空間にアクセントを作ったりしています。

  

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アサクラさんの経営する世田谷のマンション(photo: 邑口京一郎)

 

「山小屋付賃貸マンション」のコンセプトができるまで

 

室田:そういう細かな部分への配慮は、間違いなく入居者さんには伝わるポイントですし、差別化につながりますよね。そんな中で、世田谷のマンションとは直接関係がなさそうなこの小屋は、どのような経緯でつくることになったんでしょうか?

 

 

アサクラ:この小屋の隣にある建物が、母方の祖父が建てた別荘の母屋でして、この小屋は、母屋が荷物で手狭になったために建てられた書庫でした。

 

僕自身は、東京で就職して数年間勤めたあと、フリーランスのライターに転身したことをキッカケに、あまり利用されていなかった祖父の別荘の母屋に友人二人とシェアする形で移住して、その後、結婚を機に世田谷のマンションに戻るまで三年ほど住んでいました。 

 

その時によく遊びに来ていた友人から去年、山梨に物件を買って移住したいので一緒に物件を見に来て欲しいと相談され、いくつか別荘物件を見に行きました。価格はどれも安くて広かったのですが、うちの別荘も、広さを持て余してシェアした経緯があったので、あまり広すぎる物件はどうなのか?という懸念と、都内から車で3時間くらいかかってしまう距離感や移動にかかるコストが気になりました。

 

そうしていくつか別荘物件を内見するうちにふと、この小屋くらいの小さな空間こそ、たまに訪れる別荘としてはちょうどいんじゃないか?という考えに至ったんです。

 

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屋根裏部屋のような雰囲気が落ち着く小屋の2階部分

 

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竹林を背景にして、右側の建物が母屋、左側が小屋(photo: 邑口京一郎)

 

室田:ということは、まずはご自身の別荘として、この小屋を改装してみようと思い立ったんでしょうか?

 

 

アサクラ:まず真っ先に考えたのは、世田谷のマンションは年に1部屋くらい改装工事をする機会がありますが、賃貸物件という性質上、世間の流行も加味しながら、それなりに広い層にアピールできるシンプルな物件づくりをこころがけており、個性を強く押し出した設備や建材はなるべく使用しないようにしているので、この小屋を改装するのであれば、いつか自分が使ってみたいと思っていた建材を心おきなく使い、自分好みにリノベーションするような気分を味わいたいということでした。

 

次に、常日頃からマンションの内装工事の現場を目の前にする中で、DIYへの好奇心が膨らんでいたので、内装のほとんどをDIYでやることを思い立ちました。もちろん、予算的な制約も大きな理由ではあるのですが。

 

でも、自分しか使わない別荘だとすると、なかなかこのコストのかかる改装を正当化するのは難しい。そこで考えたのが、この小屋を世田谷のマンションの入居者さんたちにも使ってもらえるようにすることで、「山小屋付賃貸マンション」という付加価値をもたせる、というアイデアでした。

 

 

室田:なるほど。では世田谷のマンションの募集にあたって、「山小屋付賃貸マンション」というコンセプトを打ち出している感じですか?

 

 

アサクラ:現時点ではまだそうではなくて。今はまだ、昨年完成したばかりの、民泊でもなくキッチンもないこの小屋が、実際にどのような使われ方をするのか?の実験中の段階なので、小屋を利用できる権利を契約書に明記するようなものではなく、あくまでも「こんなものを作ってみたので、よかったら使ってみてくださいね」というスタンスで、入居者さんと一緒に楽しめればいいという形にしています。

 

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アンティークのミシン脚を再利用した洗面台の壁面に貼られた、ボックス貼りで組んだボーダータイルが床にまで続きます(photo: 邑口京一郎)

 

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シンプルな空間を目指している世田谷のマンションとは対象的に、使いたかった建材を随所に取り入れた山小屋(photo: 邑口京一郎)

 

「空き家問題」の時代に二拠点を持つ意味を考える

 

室田:実際にもう、この小屋はアサクラさん以外にも使われはじめているんですか?どのような目的で使われることが多いんでしょう?

 

 

アサクラ:はい、ここを山歩きの拠点とするなど、アウトドア方向に使いたいという方と、静かな場所でのんびりと本を読みたい、といったインドア方向で使いたい方の両方がいらっしゃることがわかりました。

 

山歩きをされるのであれば、ここから歩いて30分くらいで近くの山の頂上まで行けて、そこから尾根伝いに奥多摩や御岳山まで行けますし、温泉まで足を延ばすこともできます。

車で来られた方なら市街地や温泉までは20分ほどです。 

 

僕自身は、集中して仕事ができるこもり部屋として使うことも多いですし、誰か友人を誘って、Twitterなどで何月何日に、友人の誰々が遊びにくるよ、とつぶやけば、懐かしい友人が10人くらい集まってくれたりと、この小屋が仲間と集まるキッカケになっていたりします。

 

実際に今日こうして室田さんとお会いできたのも、この小屋がなければ起こらなかったことですし、ここに来てくれた友人がまた別の友人を紹介してくれたりと、この小屋を媒介にしていろんな人と会えることに楽しさを感じています。

 

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小川をはさんで向かいの竹林を望むこの位置を大きく開口し、はめ殺しの窓を作ったことで視界が一気に外へと広がります(photo: 邑口京一郎)

 

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植物の間をチョウチンアンコウが泳ぐ不思議なデザインの壁紙はCole&Son社の「ノーチラス」、壁面はtoolboxの「スライスウッド」、天井面はサンワカンパニーの「ヴィレ」をすべてDIYで施工(photo: 邑口京一郎)

 

室田:そうやってフラッと誰かが訪れてくれるのは、都心からの距離感もあるのかもしれませんね。僕も今日、もっと時間がかかることを覚悟して出発しましたが、予想以上に近かったです。 

 

 

アサクラ:僕の周りで別荘を持っている人に聞くと、片道数時間かかるようだと結局年に1〜2回しか使われないようで、もったいないなと思っています。僕はここに軽く年間20回は来ていますから。

 

別荘と聞けばゴージャスな響きですし、遠いと交通費も高額になりますが、ここなら世田谷のマンションの近くのカーシェアリングを使って、高速料金は片道1,000円ほどなので、車を所有していなくても、大きな負担なく来られます。入居者さんにも、そういう身近な週末スモールハウスとして使ってもらえたら嬉しいですね。

 

ところで、ライターの性分で逆取材みたいになってしまいますが、室田さんも最近、沖縄に別荘を買われてAirbnbをやられているんですよね?とても興味があるのでどんな試みなのか教えていただけますか?

 

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沖縄県国頭郡今帰仁村にオープンした宿、「irregular INN Nakijin」(photo:渋谷南人)

 

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昭和40年築のリノベーションした天高4.4mの平屋(photo:渋谷南人)

 

室田:ありがとうございます(笑)。僕の妻が沖縄出身で、実家のある那覇には毎年1〜2回子供の顔を見せに帰省していたので、いつか沖縄にも拠点が欲しいと思っていました。そんな中、10年以上空き家になっていた昭和40年築の平屋がたまたま激安で売りに出たので、たまらず飛びついてしまいました。

 

ただ、別荘にするためだけに所有しても、金食い虫になっていずれ手放すことが目に見えますので、それなら自分の好きなものに囲まれた別荘を、世界中の人にも使ってもらえるようシェアすることで、リゾートホテルともデザイナーズホテルとも違う、居心地のいい宿が作れるんじゃないか?もしそれができれば、ちゃんと収益も生み出してくれる別荘、という風に、別荘の持ち方自体をアップデートできるんじゃないか?と思いついたら、いてもたってもいられなくなり、今まさに実験をし始めたところです。

 

 

アサクラ:それは楽しそうですね!実は僕が世田谷のマンションやこの小屋の話を他の人にすると、決まって「Airbnbにしたら普通に賃貸するよりもっと儲かりますよ!」と鼻息荒く言われることが多かったので、Airbnb=お金儲けしか考えていない大家さん、みたいな印象があってあまりいいイメージを持っていなかったんです。

 

でも室田さんのお話しは、お金儲け目的ではない、ワクワク感があっていいですね!

 

 

室田:ありがとうございます!僕は最近、「不動産をホビーにしよう!」という活動をしているのですが、不動産が他のホビーと違って面白いのは、購入した不動産に手をかける楽しさとともに収益ももたらしてくれて、その収益によって次の不動産を購入できるという点なんです。

 

その観点では当然、ちゃんと収益をあげることも目的にはしていますが、決して自分だけが儲かることを目指すのではなく、入居者さんや、宿のゲストの方にも喜びを提供できるようなことを目指したいなと思っています。

 

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お伺いした日は雨でしたが、むしろ雨の日に終日ここでゴロゴロしながら読書をできたら、それは十分に贅沢な非日常

 

アサクラ:僕も、これからこの小屋をどうしていこうか?と思っていたタイミングで室田さんの宿のお話しが聞けて、刺激をいただきました。

 

室田:最近では「空き家問題」が社会問題になる一方で、タイニーハウスだったり二拠点や他拠点居住だったりと、自宅以外にも拠点を持つようなムーブメントが起きていて、気が付くとアサクラさんも僕もこうして本宅と離れた場所に拠点を持つ実験をしています。

 

今後は、相続で譲り受けた別荘の使いみちに困る人なども増えてくるでしょうから、こうした小屋の新しい使い方が、誰かにとって参考になればいいなと思います。本日はありがとうございました!

 

 

アサクラさんのブログ『山小屋大家日記』

https://ooyasakura.com/

 

沖縄県国頭郡今帰仁村にオープンした宿『irregular INN Nakijin』

http://irregular.co.jp/inn/nakijin/

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